
中馬 媛那さん
カミチクファーム(鹿児島市)
南さつま市金峰町のカミチクファーム。牛舎に入ると、子牛たちが顔を寄せてきた。「顔も性格もみんな違うんですよ」。両手で頬をゴシゴシこすられた子牛は、いかにも気持ちよさそう。「夜寒ければ風邪を引かないか、嵐の時は怖がっているだろうなと心配になる。わが子みたいにかわいい」。甘えてくる姿に目を細めた。
餌づくりから人工授精、繁殖、哺育、育成、肥育まで一貫体制を敷く同農場で、分娩から7カ月の飼育を担う哺育育成グループの責任者を務める。1人300頭近くを担当する後輩たちを指導しながら、牛の世話をこなす。
動物に関わる仕事を…北海道で畜産学ぶ
家族そろって動物好きで、いつも犬や猫を飼っていた。夢は動物に関わる仕事に就くこと。北海道の大学に進学し、実家が牛飼いという友人の話を聞き、実習で牛を育てるうちに、畜産に携わりたいと思うようになった。
男性が多い印象の畜産業。不安はあったが、「畜産にも女性の目が必要だ」という社長の熱い言葉に打たれ、カミチクファームに入社した。
だが理想とは裏腹に、入社当初は「毎日泣いていた」。生まれたばかりの子牛はか弱く、自分で母乳も飲めない。体調の変化を見逃して病気にさせてしまうこともあった。
自分のふがいなさを嘆く日々が変わったのは「この子たちと友だちになろう」と目線を低くしてから。一頭一頭が違って見えてきた。「受け入れられた」と感じた。
牛の発育決める基盤。責任の重さかみしめ
あれから6年。社長賞を取るなど仕事ぶりは周囲の認めるところとなった。「哺育育成は基盤。私たちがしっかりできないと質のいい牛にはならない」。
例えば生まれて4時間以内に母乳を飲ませなければ、栄養吸収率が悪化する。最初の7カ月間でその後の発育に差が出るため、責任の重さをかみしめる。
うれしいことに女性の後輩が増え、今では所属する部署の半数を占める。「力は男性にかなわないが、牛のちょっとした変化に気づくのは得意」と分析する。
何よりもやりがいを感じるのは、子牛を元気に育てあげ、元気な姿を見る時。「何て素晴らしい仕事だろう」。畜産県を支える牛飼いのプライドをにじませた。
中馬 媛那(ちゅうまん・えな)さん
プロフィール
鹿児島市生まれ。松陽高校を経て酪農学園大学卒業。2013年カミチク入社。18年から繁殖部哺育育成主任。
- 今これに夢中です
- 「牛とヨガ」
仕事では牛に関すること全て。プライベートではヨガにはまっています。肩こりにいいと聞いて始めたヨガですが、すぐに体が軽くなり、悩みは解消。心も体もリフレッシュでき、毎日寝落ちするほどです。